成人発達理論とは?

知性と能力の可能性に焦点をあてた
人・組織の進化の原理

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成人発達理論とは、「私たちの知性や能力が一生をかけて成長を遂げていく」という考えのもと、人の発達プロセスや発達メカニズムを解明する学問であり、発達心理学という心理学領域の一部に位置付けられます。発達に関する理論は、マズローの五段階欲求段階説を含め、ビジネス界でもいくつかのものが知られていますが、100年以上の歴史があり、数多くの発達論者が存在しています。発達心理学の基礎を築いたのがジャン・ピアジェであり、彼は幼少期の発達が段階的に進むことを示しました。その流れを汲んで成人発達理論が生まれ、近年では複雑性科学との融合により、数理モデルを用いた発達理論も存在しています。

なぜ、今、成人発達理論への注目が産業界を中心に広がっているのか?

成人発達理論は、学術領域で研究されてきたものであり、企業は企業で独自に人材育成を体系化してきたことから、これらが積極的に融合されてきたのは近年のことです。

学術と産業界の垣根を越えて、融合が図られるようになった背景には、主に三つのことが考えられ、それに加えて、日本としての特殊事情がさらに二つ考えられます。

 

  1. テクノロジーの進化
    20世紀半ばに発達心理学を理論として確立していきますが、テクノロジーが追い付いていなかったことから調査手法に限界があり、理論としての精密さを追い求めることができませんでした。しかし、近年はテクノロジーの下支えによって、複雑性科学との融合が図られるようになり、理論としての信頼性と汎用性が高まっています。
     

  2. VUCAによる環境の激動化
    VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとって作られた言葉です。環境変化の激しさは、インターネットが普及し始めた1990年代初頭から叫ばれ始めましたが、VUCAという言葉が注目され始めた2010年以降はその様相がそれまでとは異なるものになってきています。それまでは、ビジネス界における競争の激しさが問題にはなっていたものの、現代では2020年に突如発生したCOVID-19による全世界的なパンデミックはもちろんのこと、特定地域の地政学的な挙動によってルールが一変する、気候危機による自然災害が群発するなどといった形で、外部環境がダイレクトに企業経営に影響を及ぼす状態になっています。
    外部環境の激しさは、留まることなく幾何数級的に高まり続け、これからもその勢いを留めるとは到底思えない状態になっています。しかし、私たち個人の能力は一朝一夕に高まることはないことから、慢性的な能力不足に陥るという状態に、一個人のみならず、あらゆる組織で遭遇するという、大きな壁にぶつかっています。
     

  3. 内的変容手法の確立
    21世紀に入ってからは心理学に限らず、社会学やシステム理論も含め、カウンセラーが1対1で行うセラピー以外にも自らの変容を扱える手法やグループでのアプローチも可能になるものも体系化され、広がりを見せたことから、組織におけるマネジメントの場面においても、内的変容に基づいた行動変容の実践が可能になりました。
     

  4. 人口減少社会への突入
    日本は世界に先駆けて、少子高齢化が進み、人口減少社会に突入していますが、それは組織マネジメントにおける難易度を高めています。個人や会社によって事情は異なりますが、大勢としては景気に限らず、若手は売り手市場になりやすいことから転職へのハードルが低い、就労観が多様化しているといった事情から、会社に対する所属意識は今後ますます低くなっていくことが想定されます。また、定年延長の動きの中で、中高年の年上の部下が増える傾向も加速しています。事業環境は厳しさを増している中で、転職しやすい若手、扱いづらい中高年の年上部下をマネジメントしながら、成果を出すことをミドルマネジメントに強いられる状態になっています。
    ミドルマネジメントに対する負荷は高まり続けているだけでなく、彼らの能力の限界を超えていることから、優秀中間層の離職が拡大してきています。こうした状況はミドルマネジメントの機能不全を起こしているだけでなく、組織としての危機となってしまっていることから、ミドルマネジメント力向上の観点で成人発達理論が注目されるようになっています。
     

  5. 書籍に端を発したムーブメント
    日本では成人発達理論そのものの普及は欧米に比べて遅れているものの、「ティール組織~マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現~」(フレデリック・ラルー著 英治出版)をはじめとした成人発達理論の応用や実践に関連する書籍の売れ行きが好調だったことから、応用から基礎理論へと逆の流れをたどりながら、急速に広まっています。

成人発達理論は組織運営・マネジメントにどのように役立つのか?

成人発達理論の優位性は、大別すると「器」と「能力」に関係するものがあり、それぞれの段階にはどのような特徴があるのか、何がどのように作用することで発達は遂げられていくのかのメカニズムが明確になっている点等にあります。

多くの日本企業における人材育成は、これまで精神論とOJT(On the Job Training)に依存した傾向が見られました。この背景には、伸びる素養のある人材には適切な機会を提供すれば勝手に伸びる、頭角を現した社員には昇格させ、エリート教育を施せばよいといった考え方が長年にわたって続いていたことが見て取れます。しかし、管理職になりたくない社員は増加傾向にあり、優秀な社員ほど転職へのハードルが低く、自社で活躍してもらえるとは限らないという状況に変わってきています。

これはすなわち、勝手に育ってくれる優秀な社員を会社の都合で活躍してもらうという考え方はもはや、通用しなくなってきていることを表しています。

従って、偶発的に発生する優秀な人材頼みにするのではなく、社員の誰もが成長し、活躍できる組織づくりが求められますが、組織規模が大きくなればなるほど、それを研修という形で実現することには限界があります。

これらの限界を超えていくための鍵は、OJTのアップデートにありますが、それを実現していくうえで成人発達理論が役立ちます。

成人発達理論は各段階の特徴が明確になっていることで、自分が今どんな段階にいるのかを客観的に知ることができる上、何をどのようにすれば、次のどの段階に到達できるのかのヒントが得られるというわかりやすい利点がありますが、本質的な価値はそれだけではありません。

それぞれの発達段階ではどのような振る舞いを行う傾向があり、どのような固有の限界があるのかが明示されていることから、他者から指摘されてもあまりピンと来なかったような、自分が繰り返し陥っている行動パターンを自覚しやすくなる、すなわち深い自己理解が可能になります。

また、部下や周囲の発達段階上の行動特性がわかるだけでなく、自分自身との相互作用によって相手のどんな行動を誘発してしまっているのかが理解できるようになるため、他者理解が進み、相手の段階に合わせた発達促進を支援しやすくなります。

こうした発達支援をマネジメント能力として位置づけ、マネジメント力強化に役立てることもできれば、仕組みとして構造化し、組織運営に役立てることで全社的に発達支援に取り組むことも可能です。

また、エグゼクティブ層においても、リーダーシップの発達段階として、トップマネジメントとしての課題を定義しやすいことからエグゼクティブプログラム、サクセッションプランにも役立てられています。

こうした取り組みを実現している企業は実際に存在しており、発達指向型組織として紹介されています。

成人発達理論に基づいた組織運営・マネジメントは
どのように実現できるのか?

成人発達理論に基づいた組織運営・マネジメントを実現し、環境変化に適応できる進化する組織を実現するためには、1.共通体験、2.共通理解、3.共通言語、4.構造化の四つが鍵を握ります。

内的変容による成人発達を可能にする組織文化をつくれるかどうかは、VUCAにおける組織運営としての本質的な課題となりますが、その抽象性の高さゆえに、社内理解を得るのが難しいという壁が存在しています。

その壁を乗り越えていくためには、導入期、展開期、定着期という3つのステージによって社内展開を図っていくことが有効です。

導入期においては、顕在化されている人材・組織課題を題材に問題解決アプローチとして何かしらのプログラムを実施し、その中に成人発達理論に基づいた変容手法を組み込みます。それにより、参加者内で共通体験を生み、その体験は成人発達理論において概念化されているものであるという共通理解と共通言語化を図りながら、組織的な展開になるように経営層・上層部に働きかけ、社内理解の土台を作ります。

展開期では、導入期で内的変容による成人発達の必要性や重要性を体験した社内理解者をエバンジェリストとして位置づけることで、規模を拡大した展開を図ります。通常、課長レベルでは研修という位置づけよりも、事業推進の一環として学習を同時に進めていくことが理解を得られやすいため、成人発達理論を組み込みながら次期中期経営計画の検討を推進していくことが有効です。

その他にもエグゼクティブ向けのプログラムや全社理解を図る施策も必要に応じて展開していきます。

これにより、共通体験、共通理解、共通言語化を加速させていきます。

定着期においては、こうした取り組みが一時的なものに終わらないよう、発達指向型組織委員会を発足させ、発達促進を社内定着させていくための仕組化を図ります。発達指向型組織委員会の方針に従い、現場の発達促進支援策を推進し、日常業務化による文化形成を果たすようにします。

図1:成人発達理論に基づいた組織力強化展開イメージ

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主な成人発達理論とは?

成人発達理論は、数多くのものが存在しており、そのほとんどが日本では紹介されていないのが実情です。しかしながら、いくつかの理論は企業での実践と相性が良いことから、日本においても組織の適用が始められています。

ここでは、組織運営・マネジメントと相性の良い主な成人発達理論をご紹介いたします。


 

  • ロバート・キーガン:構造発達理論

この理論は意識構造の発達はどのような段階を経て進んでいくのかを表しています。主体-客体理論とも呼ばれています。

私たちは発達段階に応じて、意識構造として特有の思考や行動を規定する枠組みを持っています。それが故に、その段階特有のリアリティをある程度類似性を持つ形で体験することになることを示しています。構造発達理論では、それぞれの段階における思考や行動を規定する枠組みの特徴をとらえているだけでなく、各段階においてはその枠組みに埋め込まれている(≒乗っ取られている)が故に、自らその枠組みに気づけないまま、行動を支配されていることを示唆しています。

各段階においてはその枠組みに埋め込まれた構造を「主体」と呼び、それが「客体」へと移行していくこことを発達として定義されていることで、発達によって何が可能になるのかを理解することができるようになります。

また、構造発達理論では成人の発達段階を、環境順応型知性、自己主導型知性、自己変容型知性と三段階に簡潔に表現していることから、共通言語化を図りやすいという特徴もあります。

(成人の発達段階については「発達指向型組織」の紹介ページをご覧ください)

  • クック・グロイター:自我発達理論

この理論は、人間のメンタルモデルと意味構築活動がどのように発達していくのかに焦点が当てられています。それぞれの段階を解き明かしていくために、相互に関連した三つの構成要素(認知、情動、振る舞い)からなる心理-論理的システムを整理しています。

差異化と統合を繰り返していく発達プロセスにおいて、各段階がそのどちらにより重心がおかれているのかなどについても詳細に区分されており、現実世界に対する意味構築を行う方法の違いを明確にしています。

また、それぞれの段階においてどのような視点で物事をとらえているのかが明示されているため、その段階にいる人が他者や状況をどのくらい深く感じ取れているのかを知ることが可能になります。この領域は一般的に視点獲得能力と呼ばれますが、その能力はマネジメント力に関係が深いため、マネジメント上の課題を明確にするうえでも役立ちます。

 

  • テリー・オファロン:ステージズモデル

クック・グロイターの自我発達理論をより、発展させたこのモデルは、より詳細な発達段階の地図を与えているだけでなく、発達が構造的に繰り返されるパターンの組み合わせによって生じていることを示していることから、発達段階に対する地図をより動的なものへと進化させています。

また、各段階の特徴や限界、段階同士の相互影響についても具体的な示唆をしていることから、マネジメントの現場で生じる問題に対しての洞察を深めていくことが可能になっています。

また、各段階固有の問題を克服するために必要になる対処法も明確になっていることからより実践的な訓練方法のヒントを得ることができます。

 

  • ビル・トルバート:行動論理(アクションロジック)段階モデル

ビル・トルバートは、心理学における発達段階を経営学に適応させることで、リーダーシップの発達段階をモデル化しました。

また、状況に応じて展開される行動は、あるパターンを持っており、それが発達段階に起因するものと定義されています。その行動パターンを行動論理(アクションロジック)と呼び、課題や状況に依存する形でそれらが引き出されることを明示しています。その課題や状況にあった行動論理(アクションロジック)が引き出される場合は、場に適切な変化を起こせるのに対して、発達段階に限界づけられた形で場にそぐわない行動論理(アクションロジック)が引き出されると、望まない結果が生じることを明示しています。従って、その都度、行動論理(アクションロジック)に基づいて内省を行えば、適切な行動パターンを自ら作り、育てられるように構造化されていることからマネジメントの現場やコミュニケーションのあり方を自ら再構築できる点に特徴があります。

 

  • ケン・ウイルバー:インテグラル理論

ケン・ウイルバーは思想家であり、発達心理学者ではありませんが、100以上の発達理論を整理し、その共通性を見出しただけでなく、西洋・東洋の叡智を統合することにより、より包括的なアプローチを生み出せる地図をメタ理論として生み出しています。

彼は各発達理論が共通して表現している段階を色で表現し、統合的な地図として活用可能にしています。また、AQAL(全象限・全レベル)と呼ばれる視点の整理により、統合的な実践のヒントが得られるように体系化されています。

フレデリック・ラルーによって提唱された組織モデル「ティール組織」は、このインテグラル理論に基づいて発達段階が定義されています。

(インテグラル理論については「インテグラル理論とは」の紹介ページをご覧ください)